2021年度 活動記録 ー 第1回研究会

2021年4月30日(金)16:30-18:30開催(Zoomによる遠隔会議方式)

<参加者(敬称略)>
縣由衣子(外国語教育研究センター、フランス現代思想)
荒金直人(センター副所長、「文理連接」担当、理工学部、哲学・科学論)
石田勝彦(東京化学同人、科学系出版)
小菅隼人(センター所長、理工学部、英文学・演劇学)
小林徹(龍谷大学文学部、フランス現代思想)
寺沢和洋(センター副所長、医学部、放射線研究)
新島進(経済学部、近現代フランス文学)
沼尾恵(理工学部、政治哲学・寛容論)
見上公一(「文理連接」企画、理工学部、科学技術社会論)
宮本万里(商学部、政治人類学・南アジア地域研究)
井奥洪二(自然科学研究教育センター所長、経済学部、環境科学・医工学)
 
16:30〜17:20 「ミシェル・セール『パラジット』をめぐって―「寄食」から「感染」を見る」(縣由衣子先生)
17:20~18:40 縣先生への質問と自由な議論

今回は、縣由衣子先生からミシェル・セール(1930-2019)の著書である『パラジット-寄食者の論理(1980)』に基づいて、「寄食」から「感染」を見ることについて話題を提供していただいた。さらに補論として同じくミシェル・セールの『ローマ(1983)』から疫病状態と戦争状態はどのように区別されるのかをご紹介いただいた。発表内容に対する質問やコメントが参加者から寄せられ、研究会の終盤ではご紹介いただいた内容を踏まえた上で、参加者全体で感染からウイルスや遺伝子へと拡張した話題に至るまで議論を行った。

1960 年代〜1970 年代のミシェル・セールの思想は、ライプニッツ研究に端を発している。科学史・科学哲学の思想的な伝統の中から、問題系に対する論考を発表していたが、その後1980年代になり、思想の著述形式が独自のエッセー形式へとスタイルが推移した。今回の話題となった『パラジット』では、複数の人間集団が形成するシステムを考察する上で、主体と客体という二元論を前提とし、そこに第三の存在を加えて、宿主、寄食者そして妨害者という三項の関係からシステムの複雑化や権力関係の発生を読み解くことが試みられているようである。縣先生からは、ラ・フォンテーヌの寓話やモデル図を用いてカスケード状に続く寄食の関係が説明され、ミシェル・セールによって取りまとめられたシステムの中の寄食関係、寄食者の論理、システムを強化している妨害音、主体と客体の二元論に加えるべき第三者すなわち寄食者の必要性、三項によって成立する関係の構図、寄食は関係自体に関係を持ち、寄食者が宿主の所有するハードなものをソフトなものへと変換し交換するさまなどが紹介された。次に、『ローマ』を基にして、平時ではない戦争状態と疫病状態が語られた。戦争状態では階級、身分、分類、識別といった秩序が生み出されるが、疫病状態では諸関係が冒され、破壊される。戦争は全てが規格化されている標準状態であり、疫病は何も規格化されていない非標準状態である。fondamental なのは非標準状態であり、非標準状態は、認識論的観点からも基礎的であり、人間集団にとっても基礎的であり、歴史の時間にとっても基礎的である。このように、戦争状態と疫病状態の違いが科学的なニュアンスで説明された。なお、本日の話題の詳細については、本サイトに掲載された配布資料をご一読願いたい。

参加者からは、紹介された内容を確認する質問につづいて、寄食の関係や戦争と疫病を拡張して考える創造的な質問やコメントがあった。例えば質問として、二項対立にノイズである三項を配したときのシステムを支えているのは誰なのか、関係性の中に暴力性の大きさは入ってくるのか、システムと寄食者の関係において寄食者はシステムが機能するための前提となるのか、田舎ネズミと都会ネズミの関係は一方的な寄食関係なのか、カスケード状の寄食関係はループを描くなど共生関係を作ることはないのか、などの問いかけがあった。またコメントとしては、ジュールベルヌの物語とネズミの関係の重ね合わせや、ノイズの大きさを定義するのがサイエンスであること、感染をイメージしてウイルスがヒトに寄食しヒトが地球に寄食すること、システムに妨害者が入るとシステムはそれを受け入れて別の秩序を作り、例えばコロナ前に戻るのではなく新しい秩序が生まれるのではないか、更にはウイルスによる遺伝子導入や遺伝子組換えなどについての自由な発言があった。縣先生からはミシェル・セールの思想を踏まえた回答があり、またセールは遺伝子に興味を抱いていたことや科学者との交流があったことも紹介された。議論の最終盤にはウイルス、人類、地球を包含するような意見交換もあり、文理連接による発見と育みを感じる夕べとなった。

(以上、文責は井奥)