学┃生┃論┃文┃コ┃ン┃テ┃ス┃ト┃メールマガジン第2号 ┃
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配信日:2012.9.28
■《巻頭言》
もうすぐ10月。今年は暑くて長い夏でしたが、やっと過ごしやすくなって来
ました。論文作成の進捗はいかがですか。最終締切まであと2か月。未だ取り
かかっていない人は、もうそろそろ気合いを入れて始めないと……頑張ってく
ださい。
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■《ワンポイント・セミナー》
第2回 まずは書いてみよう。そして仮参考文献表を立ち上げよう
文学部准教授 吉田恭子
論文とはどのようなものか、講義や参考書を参照したり実際に論文を読んで
みたりと、みなさんおおよその見当はついていることと思います。どの参考書
も、論文には「問い」があり、独自の「仮説」とその「実証」があり、参考資
料が「註」や「文献表」などで裏付けられていると教えてくれます。ところが
実際に論文を書いてみればわかることですが、論文を構想し執筆するプロセス
そのものは、問い→実証→結論といった整然としたものではなく、他のクリエ
イティヴな作業同様、紆余曲折を経るのが通例です。当初のアウトライン通り
に論文が書き上がることはまずありません。
論文作成の過程は映画制作のプロセスに似ています。撮影=執筆をする前に
さまざまな下準備の作業があり、撮影も、冒頭から撮り始めるわけではありま
せん。天候やロケ地、キャストやセットの条件が合う部分から撮っていきます。
そして撮り上がったフィルムは大胆かつ緻密な編集作業で大幅にカットされ、
つなぎ直されることで、一貫性があるひとつの映画=論文となるのです。ここ
では、その下準備のなかでもとりわけ有効な作業をふたつ紹介します。ひとつ
はフリーライティング、もうひとつは仮参考文献表の作成です。
フリーライティングは論文執筆のコツとして紹介されることはほとんどない
のですが、広くお勧めしたいテクニックです。本来は、目的もテーマもないま
ま心に浮かんだことを自由に一定時間書き留めていく技法を指します。ここで
はそれを応用して、自分で決めたひとつのテーマやトピックについて、一定時
間自由に書きます。ワープロを使っても手書きでも構いません。どちらにせよ、
専用のファイルやノートを準備しておくべきで、時間は10分で充分でしょう。
とにかくできるだけ止まらず、考えず、スピードをつけて10分間書き続けます。
書いたものには終了するまで目を通しません。内容よりも、書く行為そのもの
を重要視します。10分たったら、文の途中だとしても書くのをやめます。これ
をたとえば毎日、定期的に繰り返します。
フリーライティングには三つの目的があります。(1)書く行為の敷居をで
きるだけ低くすることによって執筆に伴う心理的な負担を軽くする。(2)10
分なら10分集中して書く作業を繰り返すことで、執筆のスイッチをオンにしや
すくする。(3)書いたものがある程度たまったあと読み返すと、自分でも気
がつかなかった傾向や問いを絞り込むヒントが見つかる。
>>>この続きはWEBで
フリーライティングは以下のような場面で有効です。(1)テーマは決まっ
ていてアイディアはあるのだが、論文の全体像や構成がまだ明確でない場合。
(2)執筆になかなか気乗りしないとき。(3)論文が行き詰まったとき。以
上のような場合、とにかく10分間、ひとつのことについてとにかくひたすら止
まらず深く考えず書いていきます。途中で話題がそれていっても構いません。
支離滅裂でもいいのです。自分以外は誰も読まないのですから。映画制作のプ
ロセスに喩えるなら、フリーライティングは監督がインスピレーションを可視
化するためのコンテの前のスケッチに当たるでしょう。
続いては、仮参考文献表の作成です。中にはもうこの作業にとりかかってい
る人もいるかと思います。まだの人は今すぐ始めて下さい。一般に論文の最後
には参考文献一覧もしくは引用文献一覧が付されています。論文中で参照・引
用した文献すべてを学問分野規定のフォーマットにしたがって一覧にします。
一覧は最後に作ればいいと考えている人は、論文を書き慣れていない人です。
学術論文はただ単に自分の意見や考えを書き連ねればよいわけではありませ
ん。先行研究や過去の成果に目を通し、適宜それらに言及し、評価できるもの
は取り入れつつ、反論すべきものには検証・論駁を加えて、その上に自分の主
張をうち立てる、すなわち学問的な「対話」が不可欠です。その「対話」の相
手こそが、文献表に並ぶ論文・書籍たちです。自分の研究論文という「舞台」
に誰を招くのか。その招待客の仮のリストが仮参考文献表です。あくまでも仮
なので、名前は聞いたことがあってもまだ出会っていない人や、まったく未知
の人もリストに加えて構いません。思いついたらとにかくリストに加えていき
ます。ここでいう文献とは印刷物とは限りません。映像、聞き取り調査、各種
データなども含まれます。文献の書誌情報(著者、タイトル、副題、論文掲載
誌、ページ、出版地、出版社、出版年、ウェブ閲覧日など)はひとつ漏らさず
記録しておきます。面倒だからといって省いてしまうと、かえって後々時間の
無駄を招きます。
仮参考文献表には複数の重要な役割があります。(1)自分の学問領域につ
いてより深く調査し、論文のテーマを絞り込むための戦略的読書の道程表とし
て利用する……関連文献を検索しリストアップしてゆく過程で、どんなことに
ついてすでに研究が出版されているかが見えてきます。また、リストの文献を
既読のもの・大いに参考になったもの・反論すべきもの・未読だが入手済みの
もの・未入手のもの、等々と分類することで論文執筆のための準備の道筋が見
えてきます。(2)仮文献表を文献ノートの目次として利用する……仮参考文
献表とは別に、読んだ文献についてのメモを記入するファイル「文献ノート」
を準備します。一読した文献については、概要とコメントを記録しておきます。
その際、後々論文で引用したい部分をタイプし、その部分のページ数をメモし
ておくと執筆時の編集作業がはかどります。(3)執筆が進むにしたがい、仮
の一覧表が進化・分裂・精錬されて、最終的には論文末の参考文献一覧表とな
る……本格的な論文にはかなりの参考文献を使いますから、論文の最終段階で
参考文献すべてをゼロから完璧なリストに仕立て上げるのは極めて繁雑な作業
となります。ときには、いったん返却した本を再び借りたり、見失ったファイ
ルを何時間も探したりと、思わぬ足止めを食らうことになります。あらかじめ
気になった文献をすべてリストアップしておけば、最終的には、実際に使った
ものをピックアップすればよいだけです。また、実際の論文では使用できなか
ったが興味を持った文献を核に次のプロジェクトに向けての新たな文献リスト
が生まれます。これこそが知的営みのサイクルです。
映画制作に喩えるなら論文一覧表は映画の終わりのクレジットロール。仮リ
ストは映画撮影の前から着々と準備されています。映画ができあがってはじめ
てリスト作成に着手する制作者はいません。
フリーライティングと仮参考文献一覧は論文執筆という知的営みの両極を担
う作業です。フリーライティングは意識を執筆向けにチューンアップし思考の
柔軟性や意識の底にある思索を導き出そうとする右脳的試みであり、左脳的作
業ともいえる文献表作成は優秀な論文の第一条件である形式的な正確さを期す
ことに繋がります。
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■《論文作成ナビ》
秋学期が始まり、学習相談デスクも秋学期シフトになり相談受付を開始しま
した。相談に行く前に、具体的に何を相談するかをよく考え、きちんと整理を
しておくと、よいアドバイスが得られるでしょう。
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■《論文の書き方セミナー第2回 開催》
日時:10月12日(金)6時限(18:10~19:40)
場所:日吉D203教室
講師:山内志朗(慶應義塾大学文学部教授)
演題:論文執筆の基本心得について(仮題)
事前申込みは不要です。セミナーは公開ですので塾生は誰でも受講できます。
★ 山内先生の著書「ぎりぎり合格への論文マニュアル」を抽選で
10名の方にプレゼントします。応募は当日会場にて。
ビデオ補講を以下にて開催します。10月12日に参加できない人はこちらへ
・10月15日(月)2時限、5時限
・ 17日(水)5時限
・ 18日(木)5時限
場所:来往舎 シンポジウムスペース
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■《推薦図書紹介》
ぎりぎり合格への論文マニュアル
山内志朗 著 平凡社新書
“はじめに”を読むと、「この本の狙いは良い論文の書き方を伝授するもので
はない。不合格にならない論文を書くにはどうすればよいか。そのコツを教え
ることにある。」と書いてある。更に、論文に「独創的な考え」や「オリジナ
リティ」など必要ありません。必要なのは論文という「形式」に従って書くこ
とだけである。と書いてあるので、ずいぶん大胆な発言で、独創性は本当に必
要がないのかと思ってしまうが、要すれば論文初心者はまずは「形式」を押さ
えろということなのだろう。
本書では、形式や型をマスターするために、1)論文を書く段取り 2)論
文を書いている間の作業 3)論文の仕上げ、という3つのステップに分けて
解説が施されている。筆者が大学で実際に論文指導を行った豊富な経験をもと
に書かれているので、学生にとって貴重なアドバイスが多い。新書版で手軽な
ので、通学途中にでもぜひ読んで欲しい一冊である。
著者の専門:中世哲学 索引:なし
初版:2001年9月 本体価格 700円
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■《事務局からのお知らせ》
*学生論文コンテストの「論文執筆および提出の要領」を9月26日にE-mailで
送信しました。よく読んで確認をしてください。
<編集後記>
1週間に1回の発行を目指しているのでかなりあわただしく大変です。ある程
度読んでくれているとは思いますが、一方通行の発信のため、みなさんの反応
が読めずやや不安です。論文コンテストに関して何でも結構ですので、メール
またはWEBフォームで事務局宛に要望や感想などをお寄せください。
まもなく?回目の誕生日を迎える”論文おじさん”より。
監修 :吉田恭子 編集 :柴田浩平
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■■■■ 学生論文コンテスト ■■■■
Web http://lib-arts.hc.keio.ac.jp/ronbun/index.html
E-mail ronbun-lib@adst.keio.ac.jp
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このシステムで事務連絡をすることがあるので、配信停止をしないでください。
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