2022年2月25日(金)17:30-19:30開催(Zoomによる遠隔会議方式)
<参加者(敬称略)>
井奥洪二(自然科学研究教育センター所長、経済学部、環境科学・医工学)
小菅隼人(教養研究センター所長、理工学部、英文学・演劇学)
荒金直人(教養研究センター副所長、「文理連接」担当、理工学部、哲学・科学論)
縣由衣子(外国語教育研究センター、フランス現代思想)
石田勝彦(東京化学同人、科学系出版)
河野礼子(文学部、人類進化学)
髙山緑(理工学部、心理学・老年学)
寺沢和洋(教養研究センター副所長、医学部、放射線研究)
見上公一(「文理連接」企画、理工学部、科学技術社会論)
宮本万里(商学部、政治人類学・南アジア地域研究)
17:30〜18:15 「ポストコロナのリカバリーを考える」(井奥洪二先生)
18:15〜19:30 自由な議論
2021年度 第10回文理連接研究会 発表資料
第10回文理連接研究会では井奥洪二先生(経済学部・環境科学)より、コロナ後の社会について考えるというテーマで話題を提供いただいた。最初に感染状況について概観した後、パンデミック収束の見通し、COVID-19が社会に与えた影響、そしてポストコロナのリカバリーに向けた処方についての意見が提示された。
感染状況については、最初の感染者が発見された2020年1月16日から今日までの感染状況の変化に触れたのち、第6波の特徴としては、重症化しにくい一方で、潜伏期間が短く感染の速度が速いため、新型コロナ対応病床の使用率が高いことが指摘された。さらに、ジョンズ・ホプキンス大学が2022年2月21日付で発表したCOVID-19感染者率と死亡者数では、アメリカ、インド、ブラジル、フランス、イギリスなどが上位を占める一方で、日本は比較的下位の第19位であることが確認された。また、現在流行するオミクロン株BA.1と、72カ国で検出されたその亜種BA.2の感染力等に関する比較表が共通され、参加者もそれぞれの特徴について改めて整理する機会を得た。
次に、パンデミック収束の見通しについて説明があった。国内の抗体調査では、抗体の94-97%程度がワクチン接種によるものである。ワクチン接種状況を見ると、イタリア、フランス、イギリスなどの西欧諸国が健闘するものの、東アジアの韓国が1位、中国が3位、日本が9位であるほか、ベトナム、タイなどの東南アジア諸国が10位以内を占め、12位のアメリカを上回っている点は、各国のワクチン受容状況と感染者率の相関関係を示していた。報告で力点が置かれたのは、国内ワクチンの開発状況であった。これまでに6種のワクチンが開発され5種が臨床試験実施中であるが、承認が得るまでには至っていないことが確認され、同時に新たな変異ウィルスの出現に備えて国産ワクチン開発の重要性は明らかであること、さらに途上諸国を含む世界全体へワクチンを届けるためには、管理が容易で安定性の高いワクチンが求められているとの指摘があった。さらに日本や東アジアでの被害が比較的小さいという事実に基づき、その要因「ファクターX」が話題となり、候補として日本人の国民性や公衆衛生政策等の他に、コロナウィルスの既往に関わる交叉免疫や、特殊な白血球の型が持つ攻撃性、重症化に関わるネアンデルタール人の遺伝子の有無などが挙げられていることが紹介された。
3番目の議題として、COVID-19が社会に与えた影響の例として、CO2排出量の減少、自動車事故による死亡者数の減少、小中学校の不登校や自殺者の増加、東京都23区から周辺の都府県への転出が進んでいる点などが指摘された。
最後に、リカバリーに向けてというタイトルで話題が提供された。井奥氏は、もしパンデミックの原因が人間活動にあるならば、その根源的な対策として、科学技術の進展による個々の感染症への対策と同時に、人と社会を総合的に捉える人文社会学的アプローチが必要だとし、科学と人文社会学の接合点を見つけるべきだとした。その上で、環境やSDGsに配慮したリカバリーの仕方が求められているとし、新たなものを作り、技術を開発し、以前のグローバルなサプライチェーンを活用した流通に戻るのではなく、既存の技術や施設を活用し、環境負荷の少ない短い供給網を生み出し、軍縮を進めるなどの方策が提案された。また、来るべき未来をデザインするためには、コロナ禍で異なる世界観を持った世代が育っていることに配慮しつつ、昔に戻るのではなく、未来に向けて復興するリカバリーの形が必要だとした。
報告後は、広域的な利害に基づく統一的な政策と個人の意見との対立、リスク管理に対する日本政府と欧米社会の意識や戦略の違い、社会的な合意形成の困難さと統一的な行動変容・形成の必要性、厳しい規制・規則の設定と柔軟な適用、科学と政治の関係、未知と既知、教育におけるリカバリーのあり方、リカバリーに際して世界における弱者をどう救い上げるのかなど、多様な方向性で質問やコメントが出され、活発な議論が行われた。
(以上、文責は宮本)