2021年2月5日(金)16:30-18:50開催(Zoomによる遠隔会議方式)
<参加者(敬称略)>
井奥洪二(自然科学研究教育センター所長、経済学部、環境科学・医工学)
小菅隼人(センター所長、理工学部、英文学・演劇学)
荒金直人(センター副所長、「文理連接」担当、理工学部、哲学・科学論)
鈴木晃仁(「文理連接」企画、経済学部、医学史)
見上公一(「文理連接」企画、理工学部、科学技術社会論)
寺沢和洋(センター副所長、医学部、放射線研究)
沼尾恵(理工学部、政治哲学・寛容論)
縣由衣子(外国語教育研究センター、フランス現代思想)
小林徹(龍谷大学文学部、フランス現代思想)
石田勝彦(東京化学同人、科学系出版)
16:30〜17:40 「ワクチンなど最近の話題にみる文と理の接点」(井奥洪二)
(1) 感染状況の概要(~2021年2月)
(2) 交叉免疫仮説とネアンデルタール人の遺伝子仮説
(3) パンデミックの収束へ ~ワクチンの役割と現状~
(4) COVID-19の副産物?
17:40~18:50 井奥先生への質問と自由な議論
今回は、化学者の立場から感染症の問題に取り組んでおられる井奥先生に、Covid-19を中心に幾つかの理解すべき点についてご説明頂いた。お話のまとめの部分では、文理連接の必要性を考える一つの方向性が提案された。この点に関しては、その後の質疑応答や議論の中でも、参加者から多くの重要な見解が示された。
井奥先生の発表の冒頭で、感染症の発生数の増加の原因が、農業、開発、都市化、グローバル化、温暖化など、人類活動にあることが指摘された。次に、過去の感染症とCovid-19の比較や、Covid-19の具体的な感染状況についての説明が為された。日本が東アジア最大の感染国であることについても指摘された。その上で、世界の他の地域と比較して、東アジアでの感染や重症化の被害が比較的小さいことの説明として、「交差免疫仮説」と「ネアンデルタール人の遺伝子仮説」が紹介された。どちらの仮説も、過去の感染の影響によって東アジア人が遺伝的にCovid-19による被害を受けにくくなっている可能性を示すものである。遺伝的に有利である可能性がある東アジアの中で、現状のような「東アジア最大の感染国」である日本の状況を、より深刻に考える必要があることが示唆された。続いて、ワクチンについて、その目的(個人を守る/社会を守る)、データ上の危険性の低さ、ワクチン接種の「優先順位」についての考え方、認可そして接種に向けたスケジュール、などについて説明が為された。更に、Covid-19防止対策の影響として、CO2排出量の顕著な減少や、自動車事故による死亡者の減少などが確認される点について指摘された。以上のことを踏まえて、最後に、科学技術による治療法の開発だけでは感染症への対抗策として十分ではなく、人と社会を総合的に捉えて感染症と向き合う必要性が主張され、我々がどのような社会を目指すのかということまで総合的に考える必要があり、この点において文理の連接が必要であると結論された。
続いて、井奥先生に対する質問や、発表内容に関するコメントが、非常に活発に為された。Covid-19対策には利点だけではなく、その対策自体による犠牲もあるとの指摘(小菅)、ワクチン認可の迅速性に関する質問と指摘(石田、見上)、誰にワクチンを優先的に打つべきかという問いやその問いの前提に関する諸見解(見上、沼尾)、井奥先生の状況把握には患者の視点が脱落しているのではないか、それは「患者の医学史」を忘れた「医者の医学史」ではないかとの指摘(鈴木)、医者ではなく自然科学者の目から見ているとの回答(井奥)、感染対策と経済の両立に関する質問(寺沢)、文と理を単純に二分しない形での文理連接のモデル化の必要性についての指摘(縣)、守るべき「社会」とは何か、「科学」とは何か、ということをより慎重に問う、ローカルな問題意識の必要性についての指摘(小林)などである。井奥先生の科学者としての真摯な姿勢が際立つと同時に、そのことを理解した上で、しかしそこで丸く収めようとせず、その立場を友好的に批判するというような、とても有意義な議論が展開した。
(以上、文責は荒金)