プロジェクト概要


1.プロジェクトコンセプト

 本研究プロジェクトは、平成12年度から16年度にわたり「学術フロンティア推進事業」として行われた「表象文化に関する融合研究」プロジェクトの成果を踏まえ、慶應義塾大学教養研究センターを主体として新たなリベラル・アーツ教育(教養教育)モデルの構築を目指しています。

 わが国の大学学士課程における教育、とりわけリベラル・アーツ教育(教養教育)についてはすでにさまざまな観点から語られてきましたが、その多くは現状への批判的な意見であります。中でも、現在までのリベラル・アーツ教育(教養教育)が、広大な「知」の世界に点在する個々の「知」をただばらばらに切り離された状態でしか教示してこなかったことへの批判が強いことは周知のとおりです。

 逆に言えば、そうした人類の文化資産である広大な「知」の世界をそれぞれが有機的に連鎖・連携する世界として理解し、そこに自己を位置づけていくことが可能となるような「学びのプログラム」とそれを実施するための「学びの場」を整備した全人教育こそがリベラル・アーツ教育(教養教育)に求められていると言えるのではないでしょうか。そして、本研究プロジェクトの目的もまさにそのような教育・学習を実現するためのメタ理論とそれに基づく教育・学習モデルの構築にあります。すなわち、上述した先行プロジェクトの過去5年間の研究成果と課題を新たな出発点として、研究の重点領域・課題を絞り、かつ共同研究機関などとの連携を強化することで、より深化したリベラル・アーツ教育(教養教育)モデル構築を目指したメタ理論研究と枠組のデザインおよびモデルの実験・実践のための拠点形成を目標として設定しています。

 その意味では、本研究プロジェクトは個々の現象として存在する広義の「表象文化」(=「知」)を、その個別性を超えた「超表象文化態」としてのリベラル・アーツ教育(教養教育)モデルへと統合することを目的とした集約・集中型の研究プロジェクトだと言うことができます。

 本研究プロジェクトは具体的には以下の研究課題を掲げています。なお、ここから生まれる成果のうち、リベラル・アーツ教育(教養教育)モデルのプログラムに直接結び付くものについては実験・実践を行うことでその有効性についての検証も進めるつもりです。

▲このページのトップへ


2.研究課題−「学びのプログラム」研究

 導入教育から従来型の専門的教育をも含んだハイレベルな教育に至る大学学士課程自体を全人的な教育を目指す広義の「リベラル・アーツ教育(教養教育)」として位置づける必要があります。そのためには「知」の連鎖体系を基盤とした系統的なリベラル・アーツ教育(教養教育)プログラムが構築されなければなりません。これは言わば「学びのプログラム」のコンテンツ部分に該当しますが、ただ何を教えるかを考えるだけでなく、内容をも含んだ「学びの形態」を抜本的に捉え直すことを目的とした研究です。そこで以下の研究課題を設定しています。

1. 知識主導型表象研究(受容・継承型の「学び」)−既存の「知」の体系や人類の知的財産がどのように形成され、受容・蓄積・継承されてきたのか。これは自己の出自・由来を知ることにもつながる。

2. 融合・複合型表象研究(発展・応用型の「学び」)−現代の危機的問題の理解と解決のために既存の「知」の体系や知的財産をどのようにして組み直し、これを発展・応用させていくことができるか。これは現在の自己の立ち位置を知ることにもつながる。

3. 経験・実証型表象研究(発見・体験型の「学び」)−知的な理解が優先される知識主導型の「学び」をどのようにして身体感覚として定着させるのか、また知識主導型の「学び」だけではカバーできない分野・領域の「知」をどのようにして獲得できるのか。これは身体を含めた自己の在り様を総合的に知ることにつながる。

4. 発信・受信型表象研究(表現・評価型の「学び」)−1から3で獲得された「知」と新たに発見され、認識された自己を土台として広く社会・世界に向けて自己をどのように表現し、他者をどのように理解・評価すればよいのか。これは同時に未来へと向かう道筋を探ることにもつながる。

コンテンツユニット・イメージ図

▲このページのトップへ


3.研究課題−「学びの場」研究

 「学びのプログラム」をより効果的に展開するためには、全人的教養を涵養する「場」としての大学・キャンパスを根本的に捉え直すことにより、大学・キャンパスが潜在的に持つ可能性を探り、その実現を目指した新しいキャンパス基本構想を策定する必要があります。しかし、それは既存のキャンパス、物理的な意味でのキャンパスにとどまらず、社会や世界へとつながった新しい形態のキャンパスの創造を含むものでなければなりません。別の言い方をすれば、ひとつには「学びのプログラム」が必要とするキャンパスがあるでしょう。それは場合によっては最新のIT技術に支えられたヴァーチャルなキャンパスかもしれません。他方、キャンパスとしての可能性を潜在させる「場」から新しい「学びのプログラム」が生まれることも期待できます。そのような「学びの場」を考えるのがこの研究の目的です。研究課題は以下のとおりです。

1. 開放コミュニケーション型キャンパス研究−従来の固定的な枠組を越えて誰もがアクセス可能で自由にコミュニケーションのできる広く社会に開放された場としての、すなわち広義のバリアフリーの場としての大学・キャンパスをどのように再構築すればよいのか。

2. 拡張インタラクション型キャンパス研究−キャンパスは都市や社会に何を提供できるのか、また都市や社会はキャンパスとどのようなスタンスを取ろうとしているのか。既存のキャンパスと都市、社会との関係を見直すことで、固定化したキャンパス像を打ち破り、都市や社会に侵食するキャンパス、キャンパスに出現する社会、都市といった「入れ子」型キャンパスのあり方を考えることで新しいキャンパスの姿を模索する。最新のIT技術を応用することで、「入れ子」を世界にまで拡大することも視野に置いている。

3. 21世紀型キャンパス基本構想研究−上記のさまざまな「学びの形態」を実現・実施するためには、従来の大学・キャンパ

▲このページのトップへ


4.研究課題−「研究成果および実験・実践成果の蓄積と発信・評価」研究

 データの集積・分析・整理・データベース化と共にこれを統合してリベラル・アーツ教育(教養教育)モデルに組みなおすための技術的な基盤の再整備を行います。これにはより効果的で有効な成果発信を目的とした技術に関する調査・開発研究も含まれますが、研究活動にとって何より重要なのは、プロジェクトメンバーがどこまで共通の意識・認識を持って研究活動を推進するかという点にあります。そこでプロジェクト全体および個々の研究グループの活動状況をリアルタイムで情報提供し、かつ活動自体に全員が積極的に関与できるためのコミュニケーション機能を持ったプラットフォームが必要です。また、そのための専従的なチームを構成することが必要です。

▲このページのトップへ


5.研究課題−「研究活動・実験・実践とその成果の管轄ならびに統合」研究

 上記の諸課題に関わる研究活動や実験・実践活動を管轄し、そこから期待される成果の統合をはかるための統括組織が必要です。この組織は、1. 全人的なリベラル・アーツ教育(教養教育)モデルのメタ理論とこれに基づく総合的なプログラム・デザインを作成すること、2. プログラム構築にあたって各研究成果の実験・実践を行うことでその有効性を測定し、必要な修正・改善をはかること、を主な課題・目的とします。

▲このページのトップへ


6.研究組織

 以上の諸課題に対応して以下のような研究組織を整備していますが、この研究組織は基本的には慶應義塾大学日吉キャンパスを研究拠点とすることでその特性を最大限に活かすと共に、先行プロジェクトを通じて確立された学内外の研究機関、研究協力者とのネットワークをさらに充実させることで研究成果と実践・実験結果の発信を行い、外部の関連諸機関からの評価を受けることで持続的な研究の改善・向上をはかることを目的としています。

 具体的には、上記の課題を軸に据えた集約・集中型の研究組織として、研究活動の統括組織としての統合研究ボードのもとに三つの研究ユニットを配し、相互に補完的な関係を持った研究態勢を取っています。

  • 1.統合研究ボード
  • 2.コンテンツ研究ユニット
  • 3.学習環境構築研究ユニット
  • 4.超表象デジタル研究ユニット

▲このページのトップへ


7.共同研究機関

  • 1.韓国のソウル国立大学基礎教育院
  • 2.アメリカ合衆国リード大学ヒョン・G・リュー研究室
  • 3.NPO法人「産学連携推進機構」
  • 4.日本女子大学臼杵陽研究室
  • 5.東京大学大学院情報学環・学際情報学府
  • 6.恵泉女子学園大学佐谷眞木人研究室
  • 7.東京都港区役所
  • 8.横浜市港北区役所
  • 9.慶應義塾大学外国語教育研究センターなど

▲このページのトップへ